障害者雇用の水増し疑惑が示す、採用数合わせから定着重視へ転換する条件
ニュースの概要
障害者雇用ビジネスを通じて採用した人のうち、本来は雇用率の算定対象にならない最長1年契約の人を、企業が常用雇用労働者として国に報告していたとされる問題が報じられました。焦点は、契約期間の扱いを誤った可能性だけではありません。雇用率を満たすための採用と、本人が職場で役割を持ち続けるための雇用が、同じ数字で処理されてきた点にあります。支援会社、企業、行政の確認責任が曖昧なままでは、制度への信頼も当事者の就業機会も損なわれます。
引用元: 障害者雇用の「水増し」問題、企業の採用実務と報告制度への不信が再燃(News Infoseek / Yomiuri)
分析・見解
雇用率という数字だけでは見えない雇用の質
今回の問題の本質は、雇用率という一つの指標が、採用の入口から報告までを過度に支配していることです。企業にとって法定雇用率は重要な経営管理項目です。しかし、算定人数を満たしたかどうかだけでは、仕事の内容、契約の安定性、勤務時間、職場での支援、半年後や一年後の在籍状況は分かりません。数字が整っていても、実際には業務が切り出され、本人が組織から孤立し、契約更新の判断を待つだけという状態なら、雇用の質は高いとはいえないでしょう。
支援会社と企業の分業に潜む報告責任のすき間
特に外部の障害者雇用支援事業者を利用する場合、企業の人事部門が採用候補者の紹介を受け、支援会社が職場や業務を用意し、現場管理者が日々の指示を出すという分業になりやすい構造があります。分業そのものは悪くありません。しかし、誰が契約期間を確認し、誰が算定できるかを判断し、誰が実際の勤務実態を記録するのかがあいまいだと、営業資料上の「雇用可能人数」が、制度上の人数へすり替わります。採用を外注しても、報告責任まで外注できるわけではありません。
短期契約を常用扱いにすることで隠れる離職リスク
ここで見落とされがちな独自の論点は、短期契約を常用雇用として扱うことが、単なる集計ミスではなく、雇用リスクの見え方を変えてしまう点です。企業は見かけ上の充足で採用投資を終えたつもりになりますが、更新率や職務の習熟度を追わなくなります。本人にとっては、長く働ける職場を探しているのに、雇用率の期末調整に組み込まれたような不安が残ります。結果として離職が起きても、次の採用で人数を補えばよいという循環が生まれます。これは一般の有期雇用で問題になる短期離職の連鎖と似ていますが、障害者雇用では配慮や支援の設計不足が離職理由として隠れやすい分、検証が難しくなります。
在籍期間や配慮の実施率を追う新指標と、監査で裏付ける必要性
今後は、雇用率を入口の指標にとどめ、契約の継続、平均在籍期間、職務の広がり、本人の希望との一致、配慮の実施率を組み合わせる必要があります。たとえば採用後三か月、六か月、一年の時点で、契約更新の見込み、欠勤の傾向、業務量、相談経路を確認すれば、人数だけでは見えない異常を早期に把握できます。発達障害のある人を含め、指示のあいまいさや予定変更への対応が負担になる人には、業務手順の文章化、優先順位の明示、定期面談など、比較的低コストの調整が有効です。
技術面では、人事システムに契約開始日、終了日、更新日、算定区分、勤務実態、配慮内容を別々の項目として登録し、報告前に自動で照合する仕組みが役立ちます。ただし、システムは入力された情報の誤りを発見できても、実際に仕事があるか、支援が機能しているかまでは判断できません。契約書、勤怠、給与、業務記録、面談記録を突き合わせる監査と、本人への確認を組み合わせることが不可欠です。制度の信頼を回復する道は、算定人数を隠さず示すことに加え、その人数がどのような雇用関係と職場経験によって成り立っているかを説明できる状態を作ることにあります。
ビジネスへの影響
算定可能人数を契約書と勤務実態で照合する初動
企業の意思決定者が最初に行うべきなのは、支援会社から受け取った「算定可能人数」の再確認です。契約期間、更新の有無、所定労働時間、雇用主、就業場所、給与の支払者を一人ずつ確認し、人事担当者だけでなく法務、現場責任者、監査部門が記録を共有します。契約書の名称ではなく、実際の契約条件と勤務実態で判定することが重要です。判断根拠を一覧化し、報告前に別の担当者が点検するだけでも、属人的な見落としを減らせます。
採用人数ではなく在籍率と更新率で評価する仕組み
採用の成否を採用人数で評価する慣行も改める必要があります。採用後三か月、六か月、一年の在籍率、更新率、担当業務の種類、本人の満足度、配慮依頼への対応時間を役員会で確認し、雇用率とは別の指標として管理します。短期契約を大量に積み上げる提案より、業務設計と現場支援を含む継続的な提案を選ぶ方が、再採用費や現場の混乱を抑えられます。
支援事業者との契約に明記すべき責任と本人への説明
支援事業者との契約には、算定可否の確認責任、証憑の保存期間、監査への協力、誤報時の通知手順、本人への説明方法を明記すべきです。採用候補者にも、契約期間、更新判断の基準、配慮を申し出る窓口を事前に伝えます。数字を埋める短期策ではなく、本人が担える業務を社内で増やし、管理職が支援を自分の責任として扱うことが、法令順守と人材定着を同時に進める現実的な投資になります。