障害者雇用促進法の改正資料を読み込む日本企業の人事・法務担当者

制度改正:法定雇用率2.7%時代の障害者雇用法制

段階引き上げの全体像、対象企業の拡大、納付金・調整金、合理的配慮の義務化までを企業実務の視点で整理します。

本ページは障害者雇用促進法および関連制度の改正動向を情報提供として整理したものです。個別の法的判断や申告実務については、所管の労働局・ハローワークや専門家の情報をご確認ください。

法定雇用率の段階引き上げ:2.3%から2.7%へ

ニューロダイバーシティ雇用の需要を制度面から支えているのが、障害者雇用促進法に基づく法定雇用率の段階的な引き上げです。民間企業の法定雇用率は2021年3月に2.3%となった後、2024年4月に2.5%へ、そして2026年7月に2.7%へと引き上げられました。わずか5年あまりで0.4ポイントの上昇であり、従業員1000人の企業であれば必要雇用数が23人から27人へと4人増える計算です。雇用率は原則5年ごとに見直されるため、中長期的にはさらなる引き上げも視野に入れた体制づくりが議論されています。

2.3% 2.5% 2.7% 2021年3月〜 2024年4月〜 2026年7月〜 民間企業の法定雇用率の段階引き上げ

図1:民間企業の法定雇用率の推移(出典:厚生労働省公表資料をもとに作成)

なお、法定雇用率は民間企業だけの制度ではありません。国・地方公共団体には民間より高い3.0%(2026年7月以降)、都道府県等の教育委員会には2.9%の雇用率が適用されており、公務部門も同じ引き上げのスケジュールに沿って雇用を拡大しています。官民を通じて雇用の総量が底上げされる設計であり、公的機関における会計年度任用職員などの採用増は、地域の障害者雇用市場全体の需給にも影響を与えています。

今回の引き上げが過去と異なるのは、あらかじめ2段階のスケジュールが確定した状態で施行された点です。企業は2024年時点で2026年の2.7%を見据えた採用計画を立てることができ、支援サービス各社もこの「予告された需要増」に合わせて事業を拡張してきました。制度が市場の予見性を高め、投資を呼び込むという好循環が生まれています。

対象企業の拡大:従業員37.5人以上に雇用義務

法定雇用率の引き上げは、雇用義務を負う企業の範囲拡大と表裏一体です。障害者を1人以上雇用しなければならない企業規模は「1人÷法定雇用率」で決まるため、雇用率が上がるほど小さな企業にも義務が及びます。2.3%時代には従業員43.5人以上だった対象が、2.5%で40人以上に、2.7%では37.5人以上にまで広がりました。厚生労働省の推計では、この拡大により新たに数千社から1万社規模の中小企業が雇用義務の対象に加わるとされています。

表1:法定雇用率と対象企業規模の変化
適用時期 法定雇用率 雇用義務の対象企業 従業員1000人企業の必要雇用数
2021年3月〜 2.3% 従業員43.5人以上 23人
2024年4月〜 2.5% 従業員40.0人以上 25人
2026年7月〜 2.7% 従業員37.5人以上 27人

初めて雇用義務を負う中小企業の多くは、障害者雇用の経験もノウハウも持ちません。採用チャネルの確保、職務の切り出し、社内理解の醸成をゼロから始める必要があり、ここに支援サービス市場の新しい需要が集中しています。中小企業のニューロダイバーシティ雇用をどう支えるかは、業界全体の課題であると同時に、最大の事業機会でもあります。

除外率の一律10ポイント引き下げ

2025年4月には、障害者雇用率制度の「除外率」が一律10ポイント引き下げられました。除外率とは、船員や鉄道乗務員など障害者の就業が難しいとされてきた業種について、雇用義務の算定基礎から一定割合の労働者を除外できる仕組みです。ノーマライゼーションの観点から段階的な縮小・廃止が方針とされており、今回の引き下げで鉄道業、医療業、建設業などの対象業種では必要雇用数が実質的に増加しました。

除外率設定業種の企業では、現場業務での就業が難しくても、本社部門の事務、データ管理、システム運用といった職務での雇用創出が求められます。デスクワーク領域はニューロダイバースな人材の強みが発揮されやすい分野でもあり、除外率の縮小が結果として発達障害人材の雇用機会を広げる方向に働いていると業界では受け止められています。

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納付金・調整金・報奨金:雇用の経済インセンティブ

法定雇用率の実効性を支えているのが、障害者雇用納付金制度です。常用労働者100人超の企業が法定雇用率を下回った場合、不足1人あたり月額5万円(年間60万円)の納付金を納める義務があります。逆に法定雇用率を超えて雇用する企業には、超過1人あたり月額2.9万円の調整金が支給されます(支給人数には上限調整があります)。100人以下の企業には、一定水準を超えて雇用した場合に1人あたり月額2.1万円の報奨金が用意されています。

表2:障害者雇用納付金制度の主な金銭的仕組み(2026年度時点)
区分 対象企業 金額 性質
納付金 常用労働者100人超・法定雇用率未達成 不足1人あたり月額5万円 徴収(義務)
調整金 常用労働者100人超・法定雇用率超過 超過1人あたり月額2.9万円 支給(上限調整あり)
報奨金 常用労働者100人以下・一定水準超 超過1人あたり月額2.1万円 支給
各種助成金 施設整備・介助者配置等を行う企業 費用の一部を助成 支給(JEED運営)

納付金は「罰金」ではなく、雇用に伴う経済的負担を企業間で調整するための制度ですが、実務上は未達成コストとして経営に認識されます。10人不足なら年間600万円、50人不足なら3000万円という規模感は、支援サービスへの投資や特例子会社設立の意思決定を後押しする水準であり、この制度設計そのものが業界の市場構造を形づくっているといえます。

合理的配慮の提供義務と差別禁止

金銭面の制度と並ぶもう一つの柱が、合理的配慮の提供義務です。障害者雇用促進法は2016年から、募集・採用時および就業中における合理的配慮の提供を事業主に義務づけています。さらに2024年4月には障害者差別解消法の改正により、事業者による合理的配慮の提供が努力義務から法的義務へ格上げされ、社会全体で配慮提供が標準となりました。

発達障害のある人材への合理的配慮は、施設のバリアフリー化のような設備投資型よりも、「指示を口頭ではなく文書で伝える」「面接時に質問を具体的にする」「感覚過敏に配慮して座席を調整する」といった運用型の配慮が中心です。過重な負担にならない範囲で個別に調整するという建て付けのため、企業には障害特性への理解と、本人との対話プロセスの整備が求められます。この領域の研修・コンサルティングも、支援サービス市場の重要な構成要素になっています。

実務上のポイントは、配慮内容を決めるプロセスの設計です。厚生労働省の合理的配慮指針は、本人からの申出を起点に、事業主と本人が話し合い、配慮内容を確定し、定期的に見直すという手順を示しています。先進企業では、配慮事項を記載した「配慮シート」を本人と上司が共有し、異動や上司交代の際にも引き継ぐ運用が定着しつつあります。配慮の属人化を防ぎ、組織として一貫した対応を可能にするこうした仕組みづくりが、紛争予防の観点からも重視されています。

週10〜20時間勤務の算定特例と就労選択支援

2024年4月からは、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度障害者および精神障害者を、実雇用率の算定上0.5人としてカウントできる特例が始まりました。長時間勤務が難しい発達障害・精神障害のある人にとって働き始めのハードルを下げる仕組みであり、企業側にも短時間職務の切り出しという新しい選択肢を提供しています。

この特例は、体調の波と付き合いながら働く精神・発達障害のある人の実態に制度を合わせた点で画期的とされます。フルタイム勤務を前提とした従来の雇用率制度では拾えなかった働き方が算定対象となったことで、企業の職務設計の自由度は確実に広がりました。

また2025年10月には、改正障害者総合支援法に基づく新サービス「就労選択支援」がスタートしました。就労系福祉サービスの利用を希望する本人に対し、作業場面での観察などを通じて特性・適性を客観的に評価し、進路選択を支援する仕組みです。アセスメント結果は企業への情報提供にも活用が期待されており、採用時のミスマッチ低減につながる制度として業界の注目を集めています。詳細は支援サービス市場のページで解説します。

企業実務へのインパクトと対応の方向性

一連の制度改正を企業の視点でまとめると、対応すべき論点は3つに集約されます。第一に「量の確保」です。2.7%基準での不足数を把握し、採用計画と職務の切り出しを進める必要があります。第二に「質の担保」です。合理的配慮の提供体制、支援機関との連携、定着支援の仕組みがなければ、採用しても早期離職で振り出しに戻ります。第三に「体制の選択」です。自社雇用、特例子会社、グループ算定、外部支援サービスの活用など、複数のスキームから自社に合う形を選ぶ経営判断が求められます。

スケジュール管理の面では、毎年6月1日時点の雇用状況をハローワークへ報告する「ロクイチ報告」が実務の基準点になります。2.7%基準で初めて算定される報告に向けて、多くの企業が採用の前倒しと算定方法の点検を進めました。雇用率の算定では、週30時間以上の常用労働者を1人、週20〜30時間の短時間労働者を0.5人と数え、重度身体・重度知的障害者はダブルカウントされるなど細かなルールがあるため、人事システム上の管理体制の整備も欠かせません。

制度は今後も見直しが続く見込みであり、雇用の「数合わせ」に偏った手法への規制強化も議論されています。制度動向を継続的にウォッチしながら、実質的な戦力化と定着を軸に据えた体制を構築することが、2.7%時代の企業に求められる基本姿勢だといえるでしょう。具体的な採用実務については採用手法のページへお進みください。

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