自閉症・失読症の応募者を面接の印象で判断する危うさ
ニュースの概要
英国の雇用上訴審判所(EAT)が、自閉症スペクトラム症と失読症のある応募者の不採用をめぐる事案で、注目すべき判断を示した。下級審は、応募者が面接で自信ありげに見えたことを理由に、障害に起因する強いストレスはなかったと認定していた。これに対し審判所は、見た目の落ち着きや堂々とした話しぶりだけで内面の負担は測れないと指摘した。神経発達の特性がある人は、定型発達の人とは違う形でストレスを表すことがあるためだ。判断の軸は面接官の印象ではなく、本人の説明と客観的な事情に置くべきだという。合理的配慮の求め方についても、応募者が細かく明示しなかった点を安易に責められないとの考え方が示された。
引用元: 自閉症・失読症の応募者をめぐる英国雇用審判、外見上の自信だけでストレスの有無を判断しないよう警告(EMW Law)
分析・見解
自信ありげな態度が、負担のなさを証明しない理由
今回の核心は、外から見える様子と内側の負担を同じものとして扱ってしまう誤りにある。面接官は、目を見て話し、はきはきと答える人を「問題なく対応できている」と受け取りやすい。しかし自閉症のある人の中には、事前に台本を何度も練習し、表情や話し方を意識的に作って乗り切る人がいる。これは「マスキング(=特性を隠して周囲に合わせること)」と呼ばれる。
本番で堂々として見えた人ほど、終わった後に強い疲労で動けなくなることがある。見た目の自信は、負担の小ささではなく、むしろ見えない努力の大きさを示している場合もある。
失読症との重なりが見えにくさを増す
失読症は、文字を読んだり書いたりする場面で困難が出る特性である。面接では、手元の資料を読む課題や、その場での筆記試験が重なると負担が一気に増える。自閉症の特性と組み合わさると、初対面の相手、予測できない質問、時間の圧力が同時にのしかかる。
一つひとつは「ささいな不便」に見えても、重なれば大きな消耗になる。この足し算の視点が、従来の採用現場には欠けていた。審判所が本人の説明を重く見るよう求めたのは、外からは足し算の結果が見えないからである。
日本の合理的配慮の考え方との比較
日本でも、障害者差別解消法の改正で民間事業者の合理的配慮が義務になった。障害者雇用促進法は、採用時にも応募者の特性に応じた配慮を求めている。ただし実務では、本人が自分から具体的に申し出ることが前提になりやすい。
英国の今回の判断は、そこに一石を投じる。本人が特性を十分に言葉にできない場合もあるからだ。たとえば自閉症の人は、何が負担になるのかを事前に言語化すること自体が難しい。企業側が「何も言われなかったから配慮不要」と考えるのは、法的にも危ういという示唆である。
印象評価から、構造化された評価へ
面接官の勘や好印象に頼る採用は、定型発達の話し方を基準にした採点になりがちだ。今後は、全員に同じ質問を同じ順で聞き、評価項目を事前に決める「構造化面接」や、実際の仕事に近い課題で能力を見る方式が広がるだろう。これは障害のある人だけでなく、全ての応募者にとって公平性を高める流れである。
ビジネスへの影響
面接の設計で、まず見直す三つの点
最初に、質問内容を事前に共有できるかを検討するとよい。当日の不意打ちが減るだけで、負担は大きく下がる。次に、筆記や資料読みの課題には、時間の延長や読み上げ、別室での実施といった選択肢を用意する。最後に、評価シートから「話しぶりの自信」「第一印象」のような曖昧な項目を外し、職務に必要な能力に絞る。
この三点は費用がほとんどかからない。それでいて訴訟リスクと機会損失の両方を下げられる。
配慮の申し出を待たない案内文の作り方
募集要項や面接案内に、「希望があれば配慮します」と書くだけでは足りない。「質問の事前送付」「筆記時間の延長」「オンライン面接への変更」など、具体例を並べて選べる形にすると、本人は申し出やすくなる。特性を説明するのが苦手な人でも、選択肢から選ぶことはできるからだ。
面接官向けには、短い研修で十分に効果がある。落ち着いて見えることと負担がないことは別だという一点を、事例つきで共有しておきたい。
不採用理由の記録が、後の備えになる
不採用にした理由は、職務要件に照らして具体的に記録しておくべきである。「印象が合わなかった」では、後に差別的な判断を疑われたときに説明できない。応募者から配慮の相談があった場合も、その内容と対応を残す。
採用の公平性は、人事部だけでなく現場の面接官一人ひとりの習慣で決まる。今回の英国の判断は、その習慣を点検する好機になる。